暑さ寒さも彼岸まで、本当にそうで、寒さで縮こまった体が少しづつほどけていくような季節になりました。

どこか懐かしい風景画。御年80歳の父の作品です。”お父さんは昔絵を描いていたのよ~”と親戚の叔母さんから聞いたことはありましたが、実際描いてる姿は見たことがなく、なんとなく忘れていたウワサ話でした。サラリーマンを70歳で定年、その後早々に描き始めました。大好きな白川郷の風景、日本の古布を使って描いたらなんとしっくりいくものだろうと、ここ10年取り組んでいます。この絵は父が独自に考えた手法です。糊を付けた台紙に、細かく裂いて糸くず状にした古布を一色ずつピンセットで少しずつのせていきます。糊を乾かし、またのせて、乾かして・・・何度も繰り返して描いていく根気のいる作業です。古布の載せ方や裂き方に試行錯誤しながら、立体感のある奥行きのある絵にしています。あのウワサは本当だったんだなと、一枚出来上がる度に思うようになりました。

昔の着物や半纏をほどいていると、作家でも何でもないごくごく普通の人がかけた手間にびっくりすることが多々あります。刺し子だったり、ハギだったり、裂き織だったり。この絵もまさにそうで、名もないどこかの老父が一身に描き残している日本の風景画、なぜか見入って、後でほっこりしてしまうのです。